AALAS Web Site 'Kids 4 Research' より

                                          実験動物福祉担当 川端 賢

 現在小学生向けに出版され、全国図書協会の推薦も受けている「実験犬シロ」のお話をご存知の方も多いのではないでしょうか。飼い主に捨てられた一匹の犬がのちに人道的な配慮に欠けた動物実験に使用され、瀕死の状態で保護されるまでを描いた本です。
 あの事件から十数年を経て、動物実験業界での動物福祉に対する姿勢は、格段の改善がなされてきました。今日、実験に使用される動物は、専門業者によって実験用に繁殖、供給されています。
 また各研究機関には動物実験審査委員会が設置され、人道的な条件下での実験を徹底、使用動物数の制限および動物を用いない代替法の導入が奨められています。
 こうした努力の結果、今日の研究機関において、シロの悲劇が繰り返されることはないでしょう。
 シロの本を読んだ子供達が動物実験に対する嫌悪感を持ってしまうのは残念な事です。しかし、彼等がそのような感情を持ち、それらが強化されてしまう大きな理由のひとつとして、動物実験が正しく認識されておらず、ともすればひたすらに動物実験は悪とする情報ばかりがあふれている現在の状況が考えられます。このような状況を改善するために、子供達に誤謬や誤解のない正確な動物実験の現状を教育出来るのは、他ならぬ我々動物実験従事者ではないでしょうか。
 AALAS(American Association for Laboratory Animal Science:米国実験動物学会)が運営するWeb Siteに、「Kids 4(for) Research」というものがあります。動物実験の必要性および妥当性、人道的な動物実験を目指した現場での取り組みなどの実態を、子供向けにわかりやすく解説し、紹介しています。今回は、この「Kids 4 Research」に掲載されているQ&A集から、いくつかをご紹介します。

Q. なぜ動物実験をするのですか?
A. 朝起きて歯を磨いたり、学校で絵具を使ったり、私達は毎日色々な製品を使っています。でもそれらが安全な品物なのかどうか心配をする必要はありません。なぜなら、シャンプー、洗剤、歯磨き粉などの商品は、あらかじめ動物を使って安全である事を確かめてあるからです。これは、法律で決められている事なのです。
アメリカでも毎年たくさんの子供が、うっかり洗剤などを飲んでしまう事故が起きています。でもあらかじめ動物でテストをしてあるから、どうやって治療をすればいいのか分かっています。危険な洗剤を飲み込んでも、医者はちゃんと治療法を知っているのです。
このように動物実験に助けられているのは、人間だけではなくて、実は動物や地球環境も含まれます。人間、動物、環境には、いったい何が危険なのか、あらかじめ知っておく必要があります。だから、このシャンプーは目に入っても安全か、とか、この肥料は環境を汚さないか、などのテストを行っているのです。私達の周りにいるペットや家畜、野生動物にも、どの製品をどのように使用したら安全か、あらかじめ動物実験で確かめています。だから動物実験は、人間のためだけじゃなくて、動物を救う為にも必要なのです。

Q. 化粧品にまで、動物実験をするのはなぜですか?
A. 脱臭剤、香水、化粧などが安全である事を確かめる為に、動物実験を行う事が法律で決められています。テストをしないと、私達はこのような製品を使うたびに、危険な目にあうかもしれません。お母さんが使っている口紅や、お父さんが使っている髭剃りクリームが安全である事を、あらかじめ確かめておく必要があるのです。
実は数十年前までは、動物ではなくて、人間が実験に使われていました。安全かどうか分からないものを人間でテストして、重い病気になったり、目が見えなくなったり、死んでしまった人もいました。
化粧品は薬と違って、ほとんど毎日使うものです。だからテストは尚更大切です。化粧品をうっかり飲み込んでしまっても、それが安全である事をあらかじめ確かめておく必要があるのです。また、長期間同じ製品を使い続けていても健康に害を及ぼさない、という事も確かめておく必要があるのです。

Q. 「動物虐待をしていない(動物実験を行っていない)」という売り文句の商品がありますが?
A. 「動物虐待をしていない(動物実験を行っていない)」という言葉は、誤解を招く表現です。法律では、全ての商品の安全性を動物実験で確認する事が定められています。ですから、「動物実験を行っていない」という商品は、外部の施設に動物実験をやってもらっているだけか、または過去に動物実験を行ったものを新しい商品に再利用していて、現在は動物実験を行っていない、と言っている商品です。
科学者達は、厳しい法律に従って動物実験を行い、使用される動物の安全と健康に配慮しています。こうした法律では、実験で動物に苦痛を与える事が厳しく禁じられていますので、動物実験=虐待、という表現は間違っています。

Q. 動物実験で使う動物数が、段々増えているのは本当ですか?
A. そのように思っている人達もいますが、実際にはここ20年くらいで、動物実験の替わりにコンピューター等を使うようになり、実験に使用する動物の数はかなり減っています。ある統計によると、50%も減ったと言われています。ネコの使用は、1967年から比べると66%も減りました。動物を使用しない実験をしたり、実験動物医学の改善によって、実験に必要な動物数は減少しています。

Q. 全ての実験をコンピューターで出来ないのですか?
A. 残念ながら生物の体内の働きをコンピューターで完璧に真似する事は、今のところ出来ません。数学やコンピューターを使ったり、生き物の一部分を使って実験をしますが、なかなか正確な結果が出ないのが現状です。

Q. 動物は実験で痛い思いや、辛い思いをしないのですか?
A. 動物の痛みや辛い思いをなるべくさせないようにしよう、という法律に従って実験を行っています。飼育環境、エサ、運動量に関する決まりもあり、動物が気持ちよく過ごせるような工夫がされています。
まだよくわかっていない病気を理解するために、動物を使用しているのですから、動物に対して感謝の気持ちを込めて出来る限りの世話をしなければいけません。そして動物を大切に飼育管理する事は、正しい実験結果にも繋がるのです。
動物をしっかり世話するために、どこの研究所にも、動物を大事に扱っているかどうかを監視する委員会があります。この委員会には、科学者、一般の人、そして獣医師などが含まれます。

Q. なぜ動物の使用が欠かせないのですか?
A. それは人間の体と動物の体がとてもよく似ているからです。人間の免疫機能は、そのほとんどがマウスの実験から分かったものです。またイヌを使った実験では、人間の心臓や血液の事が分かりました。そして、動物実験で分かった事が、ほかの動物を助ける事にも繋がるっています。
動物実験をしていなかったら、これまでの医学的な発見は起こらなかったでしょう。ワクチンや、臓器移植、輸血の技術、交通事故などで大きな傷を負った人の治療など、動物実験をやってきたおかげで、どうすればいいのか分かりました。癌や心臓麻痺の予防には、食べ物に気を付けて、運動をすればいい、という事もわかりました。だから我々は、実験用の動物達にとても感謝をしています。





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