実験動物の福祉や3Rについては、本年2月に行われた日本実験動物技術者協会関東支部懇話会のテーマとして取り上げられるなど様々な取組みがなされてきている。本邦においては、昨年6月に「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正され3Rが明記されたことに伴い、このような取組みは今後一層活発化することが期待される。一方、動物福祉や3Rに関する論文も、特に欧米の実験動物分野の学術雑誌において多く掲載されている。今回は、英国に本部を置く、National
Centre for the Replacement、 Refinement and Reduction of Animals in Research(NC3Rs)から発表された論文の要約を紹介する。この論文では、3Rの1つであるrefinementが実験動物の福祉を増進し、同時により高品質な実験結果をもたらすことを、幾つかの例と共に示している。
FELASA (Federation of European Laboratory Animal Science Association)は、科学研究における3Rs
の実行を推進することを目的とし1978年に設立された。教育やヘルスモニタリングなどRefinementに関するガイドラインを作成し、その活動は雑誌Laboratory
Animalsに投稿されている。
外科的手術による痛みや苦痛を低減する目的で、術中の麻酔の使用や術後の鎮痛剤の使用など、Refinement技術が用いられる。鎮痛剤の使用が増えている一方、調査された2002の論文のうち、げっ歯類で術後疼痛の低減が行われていたのは20%に過ぎなかった。Refinement技術の重要性について、もっと留意する必要があろう。
ラットにカテーテルを留置する手術では、無菌的に行われた場合、術後25日の時点での生存率は100%であり、感染やカテーテルの詰りもないのに対し、非無菌的に行われた場合、半数が死亡し、83%の動物で感染症やカテーテルの詰りも見られた。同様に、遺伝子改変動物を作製する為に受精卵を子宮に戻す場合、「クリーン」な器具を用いた場合妊娠まで至らないが、「滅菌された」器具を用いることで妊娠率が上昇した。
用いられる動物種の行動を含めた生態を知ることは、実験室での動物の飼育や使用の方法の改善に有効である。野生ラットの平均的な巣と同じ大きさのラットハウスを用い、巣材をいれた場合、妊娠率が上昇し、攻撃行動が減少した。
摂餌は自由にすることが多いが、むしろ制限した方が動物はより丈夫で、実験によるストレスによりうまく対処できるようになる。従って、実験室では制限給餌をスタンダードとすべきである。この場合も動物の習性にあったものにする必要がある。野生のウサギは午後遅くや夜間に餌をあさる。実験用のウサギが午前中に制限給餌されると、摂水量が増えたり、噛み付きなどの常同行動が増えたりする。しかし午後遅くに給餌されると、摂水量は正常となり、自由摂餌や午前給餌と比べ常同行動が減る。
イヌの行動専門家が研究スタッフとともに、それまで行っていた訓練やエンリッチメントプログラムを見直し、毎朝イヌ同士やイヌとスタッフの"社会化
Socialisation"、野外の散歩などのプログラムを取り入れた。その結果、尿中ナトリウム排泄量が、プログラム導入前は2-27μmol/minであったのに対し、導入後は1-3μmol/min
と大幅にバラツキが減少した。
動物福祉の真の改善・進歩を確実にし、同時に科学の質を維持、改善していくためのRefinementがいかになされなくてはならないか、を明らかにする科学的な研究が要望される。
(訳:高木)
引用: Refinement benefits animal welfare and quality of science
Merel Ritskes-Hoitinga, Line Bjoemdal Gravesen & Inger Marie Jegstrup
National Centre for the Replacement, Refinement and Reduction of Animals
in Research, #6,
March 2006